原発と原爆の同異(6)―原発の原理(その2)―

原発と原爆の同異(6)

―原発の原理(その2)―

松山奉史

 

これまで、原発では核反応に低速n(熱中性子)を用いること、この低速nは高速nが他の原子・分子との衝突(散乱)をくり返しそのたびに減速することによって実現できることを述べました(本誌188号)。ここでいう原子・分子というのは厳密には原子の核、分子を構成している各原子の原子核という意味ですが、衝突による減速の原理は“相手原子核の質量がnの質量に近いほど、nの運動エネルギーを相手核に多く渡すことができる”という物理法則です。例えば、U-235の核分裂で生じた高速nが熱中性子(低速n)にまで減速されるには、相手原子が水素(H)ならその原子核は陽子(p)1個ですから質量はnとほぼ同じで20回弱の衝突で十分です。もし、相手核が酸素(O)、U-238なら、質量はそれぞれnの16倍、238倍で、衝突回数は各々150回程度、2000回強となります。衝突回数が多いということはそれだけ熱中性子化に時間がかかるということも意味します。

今、原発の燃料部分が1個の大きなUO焼結体の塊でできていると仮定します。U-235の濃縮度は3%ですから、U-235の存在はU-238の大海原にちらほら疎らに浮かんでいるようなイメージになります。このような状況の下でU-235が核分裂を起こしたとします。発生したnは高速のnですが、このnを焼結体内で低速のnにまで減速し、引き続いてU-235の核分裂につなげようとすると、焼結体内には減速のための衝突相手はU-238とOのみでHは存在しませんから、時間のかかる多数回の衝突になってしまいます。すると、U-238の核的性質(本誌188号で述べたU-238の核分裂やnの捕獲)が効いて、U-235の核分裂の続行が困難になってしまうのです。

では、この困難を克服するにはどうすればよいかといえば、第一に高速nを焼結体内で減速することを回避し、第二にnを一旦焼結体外に出るように仕向けて外で別途減速し、第三に十分低速となった熱中性子を再び焼結体内に戻してU-235に吸収させることができればいいわけです。

それでは、実際の原発ではどうなっているかといえば、直ぐ上で述べた困難克服策がそのまま採用されていて、UO焼結体を多数の細長い燃料棒に加工して軽水中に設置しています。細く棒状にしているため燃料体全体の表面積も1個の塊である場合と比べて格段に大きくなり、U-235の核分裂で発生する高速nの燃料棒外への脱出が容易になっています。脱出したnは(軽)水分子中にあるHの原子核と約20回の衝突を行い速やかに熱中性子になります。熱中性子となったnはその後もHと衝突しながら軽水中を拡散してゆき、いずれその大部分は炉心を構成している燃料棒内に到達し次のU-235核分裂に寄与します。ここまでの一連の過程で、高速nの飛び出し時を起点として熱中性子になるまでの時間は約1マイクロ秒、このnが燃料棒内に戻りU-235に吸収されるまでの時間(拡散時間という)は約0.2ミリ秒とされています。つまり、核分裂で飛び出した1個のnに注目すると、これが次の核分裂を起こすまでにかかる時間は拡散時間の長さが律速となり、軽水炉の場合は約0.2秒ということになります。

ここで一つ指摘しておきたいことは、高速nが燃料棒の外に出るためには短時間(あるいは短距離)とはいえU-238の海の中を必ず通過し、燃料棒の長さ方向に進んだ場合にはより長時間U-238の海の中に滞在することになり、また、一旦軽水中に出たnでも十分低速になる前に再び燃料棒中に戻ることもあり得るということです。これらの現象があるということは、nがU-238と相互作用してU-238の核分裂を引き起こしたりU-238に捕獲される(U-239になる)確率がまだ残っている(完全にゼロにはできない)ことを意味します。後者についていえば、U-239はβ崩壊でPu-239になり、このPu-239が溜まりだすとさらにnを吸収してPu-239の核分裂を起こしたり(Pu-239は核分裂性物質です)、Pu-240、241も生成され得ることになります。新品の核燃料が炉心に装荷されると3~4年間燃やし続けますから、例えこれらの確率が小さいとしても蓄積された結果は相当大きなものになります。それを使用前の新品燃料と使用済燃料(発電後)に含まれるUに関連した重量成分比でみてみると、使用前にはU-235が3%、U-238が97%であったものが、使用後にはおよそU-235が1%、U-238が95%,Puが1%、核分裂生成分が3%になっています。新たに生成されているPuの起源は明らかにU-238にあり(そのためU-238は減少している)、U-235の減少分は2%なのに核分裂生成物が3%になっているのはU-238、Pu-239の核分裂やPu以外の超ウラン元素の生成があることを示しています。この結果から、原発の出力にはU-235だけでなくU-238やPu-239の核分裂による寄与もあるという結論になります。(以下次号に続きます)

 

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