原発と原爆の同異(5) ―原発の原理(その1)―
原発と原爆の同異(5) ―原発の原理(その1)―
松山奉史
原子炉とは、一般的にいえば、核分裂の連鎖反応を人為的に制御し持続させるよう(既述の反応式Ⅰ)考案された装置のことで、原発は火力発電所(火発)のボイラー部分をこの原子炉で置き換えたものです。つまり、核分裂(以後U-235の場合を扱います)で発生する熱でお湯を沸かし、できた蒸気で発電機を回すのですが、火発の場合になぞらえてU-235の核分裂を“ウランという(核)燃料が燃える”とも表現します。
ところで、原発に用いる原子炉には様々な種類がありますが、現在国内で稼動または休止している原発の原子炉は沸騰水型軽水炉(BWR)か加圧水型軽水炉(PWR)のみしかありません。そこで以下では、中性子の減速材として軽水(普通の水)を用いる軽水炉(原発)の場合に限定して述べます。ちなみに、原発では軽水で満たされ核燃料を納めている容器を圧力容器とよび、鋼鉄製でその壁の厚さは約16cmあります。
天然ウランにはU-235が約0.7%含まれていますから、そのまま核燃料として使用できれば理想的なのですが、軽水炉では軽水中の水素(H)が中性子を吸収する確率(中性子吸収断面積といいます)が少し大きいため、実は天然ウランのままでは燃料として使用できません。そこでU-235の含量を3%前後まで高めて(濃縮といいます)使用しています。濃縮度を3%前後にする根拠はあまりはっきりしませんが、もともと軽水炉は原子力潜水艦や原子力船用に開発された経緯がありますから、何か歴史的な事情が理由かもしれません。
原発用ウラン燃料の製造方法は、当会が毎年春に見学会で訪れる原子燃料工業K.Kのパンフレットに記載があります。先づ、濃縮度3%のU-235を含むウランを二酸化ウラン(UO2)の粉末にし、これをセラミック状焼結体(半径約8mm、高さ約9mmの円柱状のペレットで燃料要素の最小単位)にします。次に、ペレット約400個をジルカロイ製燃料被覆管に密封し1本の燃料棒とします。さらに、燃料棒を正方格子状に束ねて燃料集合体にしますが、これにはBWR用として9本×9本、PWR用として14本×14本、15本×15本、17本×17本等に配列したものがあります。ここで、ペレット1個の重さは約5gですから燃料棒1本の重量は約2kg、燃料集合体になると順に約160、400、450、580kg等になります。
圧力容器(原子炉)の中で燃料を装荷する部分を炉心とよびますが、電気出力100万KW級の原発ではBWRで燃料集合体を700体以上、PWRで200体前後配置して炉心を構成します。したがって、炉心部にある二酸化ウランの総重量はBWRで約110t、PWRで約90t(15本×15本の場合)にもなります。これより、炉心部にはU―235が約3t(BWR)、2.4t(PWR)存在することになります。
ところで、電気出力100万KWといえば1日に約3kg、1年で約1tのU―235を燃やすことになります。広島に投下されたウラン原爆では約1kgのU-235が高速nによる連鎖反応(既述の反応式Ⅱ)で瞬間的に核分裂を起こしたのに対し、原発では約1kgのU-235が低速nにより8時間ほどかけてゆっくり燃やされている(反応式Ⅰ)ことになります。(途中ですが、この先は次号に続きます。なお、今回出てきた数値、特に重量に関する数値は当たりをつけた程度の概算値で、厳密さを欠いています。)