NO4 X線とγ線の違い(1)

NO4 X線とγ線の違い(1)

X線もγ線も放射線ですが、その違いは何かとよく質問を受けます。今回はX線の話です。
 数学では未知数の符合としてXを用います。転じて、正体不明のものをXと表すことがあります。
 ドイツのレントゲンはクルックス管(注)という装置を用いて真空放電の研究をしているとき、管の内部からガラス管壁を通して管外部へ未知のものが放射されていることを発見しました(1895年)。正体は不明だったので、これをX線と名づけました。発見のいきさつは、黒紙に包んで装置近くに置いてあった写真乾板が感光していることに気づいたことです。今では、X線は電磁波の一種(光や電波の仲間)であることが分っています。その波長は、おおまかにいえば、紫外線より短くγ線より長い範囲にあります。
 X線が発生する理由は、クルックス管内の陰極から飛び出した電子が陽極に入射し、二種類のクーロン相互作用を行って自身のもつ運動エネルギーを失うからです。相互作用の一つは陽極物質を作っている原子の核(正電荷をもつ)との相互作用、もう一つは核の外側を回っている軌道電子(負荷をもつ)との相互作用です。核との相互作用では、使用した陽極物質に関係なく連続スペクトルのX線が発生し(制動輻射)、軌道電子との相互作用では、用いた陽極物質それぞれに固有の特性X線(線スペクトル)が発生します。ここで、レントゲンが行った実験条件の下では、二つの相互作用の前と後で物質原子の状態には何の変化も起きていません。したがってX線は、陽極に入射した電子のもっている運動エネルギーが二つの相互作用を通してX線に変換されたのだ、と考えることができます。つまり、X線とはもっぱら電子が放射したものなのです。
 こうしてX線の正体は判明したのですが、当初名づけられたX線という名は今日でもそのまま使用され続けています。そして放射線としては最初に発見され、しかも人工放射線の最初の例となっています。

(注)クルックス管:クルックス(英)が初めて用いたガラス製真空管。内部の真空度は10パスカル以下。陰陽2個の電極を内蔵しており、電極間に電圧をかけると陰極側から出た電子が加速されて陽極板に飛び込む。

松山奉史

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