原発と原爆の同異(4)―原爆の原理―
原発と原爆の同異(4) ―原爆の原理―
松山奉史
前回予告した臨界量とそれを支配する形・密度(濃縮度)との関係をウラン原爆について見てみます。
原爆は兵器ですから使用時には飛行機に搭載し目的地まで運搬できる重量・大きさでないと意味がありません。しかも、投下にあたっては短い落下時間内に爆発が起きることに加え、激しい爆発の威力を最大限に発揮できるように、点火から爆発に到るまでの核分裂連鎖反応(式Ⅱ)ができるだけ短時間で進行することが要請されます。そこで、原爆を設計する際には炸薬部に対して次のような組合せが検討されたはずです。①U-238に高速nを用いる、②U-235に高速nを用いる、③U-235に低速nを用いる、という三つの場合です。
①の場合、高nがU-238を核分裂させる能力があることを利用しますが、その確率は(前回触れたように)かなり下さく、炸薬部を純粋なU-238金属(濃縮度100%、天然ウランでもほぼ同じ)にしたとしても、その臨界量は数トンになるそうです。これでは、たとえ原爆が作れたとしても飛行機に搭載するには重すぎます。従って①の組合せは除外されます。
②の場合、高速nを減速しない(故に減速材は使用しない)ままU-235に衝突させたときの核分裂の確率はU-238の場合に比べると約40倍も大きく、U-235の濃縮度を高くすれば原爆実現の可能性があるかもしれません。実際、純粋なU-235金属について臨界量を理論的に計算してみると約47Kg程度になったようで、以後この②の組合せが原爆開発の出発点となりました。因みに、濃縮度20%で臨界量は400Kg、15%なら600Kgになるそうです。
③の場合、高速nを減速材を用いて低速nにすればU-235の核分裂の確率は高速nの場合に比べて桁違いに大きくなるので原爆実現は一見確実なように見えます。しかし、この方式だと新たに不都合な事態が生じます。一つは炸薬部に減速材を組み込む必要が生じるためその構造が複雑になり重量・体積も増えることです。もう一つはnが減速過程を経ることで、連鎖反応式Ⅱにおける連続する世代間の平均時間幅がミリ秒程度(長い!)に延びてしまうことです。すると分裂時に発生する大きな熱の影響で炸薬部の膨張・蒸発という現象が生じ、その結果連鎖反応が十分進まないうちに通常化薬爆弾程度の爆発を誘引してしまうのです。つまり、原爆に期待されている激しい爆発を十分発揮できないまま終ってしまうわけです。したがって、この方式による開発も意味がありません。
次に、臨界量と形との関係についてですが、この問題は炸薬部の大きさが有限であるという事実から生じ、炸薬部の内部で生成されたnの一部は必ず炸薬部表面から外部へ逃げ出すという現象(漏洩といいます)があるという事情に由来します。即ち、生成したnの全てが次の核分裂反応に寄与できるわけではない、という原理的問題があるのです。とはいっても、原爆に要請される性能を実現するためには、漏洩するnを最小限に抑え、(nの数を制御しないで)なるべく多くのnを核分裂にりようしたいわけですが、この問題の解決策は炸薬部の形を球形にすることなのです。そのわけは、体積と密度が同じ(故に重量が同じ)物体のなかで表面積が最小になる形が球形だからです。もし球形からはずれると、表面積は必ず増大し、nの漏洩も増えることにより、核分裂に寄与できるnの数は必ず減少し反応の効率は必然的に低下します。よって、その分を補正するために炸薬部の重量(または体積)を増やさないと同じ効率を維持できなくなります。つまり、球形からはずれると臨界量は必ず大きくなる関係にあるというわけです。以上、これまで述べてきたことをまとめてみると、原爆の炸薬部には純粋なU-235金属(濃縮度100%)を用い形は球形にすることが理想的で、こうして原爆はコンパクトに軽量化することができ最大の効果を発揮できるようになる、というわけです。
ところで、広島型ウラン原爆の炸薬部は理想とする球形ではなかったために約60KgのU-235金属を使用したそうです。そして、爆発までに核分裂したU-235の量は約1Kgで、反応に要した時間は100万分の1秒(1億分の1秒とする人もある)、爆発寸前の温度は数百万度~一千万度、圧力は数十万気圧になったといわれています。また、炸薬部は投下時の落下時間内に臨界量にしてやる必要があり、そのため予め臨界量のウランを二分し、個々には未臨界量である二体を落下中に合体させて臨界量になるようにしました。
一方、長崎型プルトニウム原爆については、落下中の臨界量達成方法にユニークなところがあります。先づ未臨界量のPu金属を球形に配置し、その外側に高性能化薬を配します。次に、化薬の爆発力を用いてPu金属を中心方向に向けて均等に圧縮(爆縮といい体積は減少)します。するとPuの密度が一気に大きくなり、その密度に合った臨界量が瞬時に達成されるというもので、この方法は(重量ではなくて密度の方をコントロールするという点でユニークなのです。