NO4 「“殺すなかれ”を生きる」 日本キリスト改革派千里山教会 牧師 弓矢健児
「小さな抵抗~殺戮を拒んだ日本兵」という題の歌集が、岩波現代文庫から出版されています。この歌集の著者である渡部良三さんは、1944年学徒出陣で中国の部隊に配属されました。しかし、軍事教練の日々を送っていたある日、上等兵の命令によって、中国人捕虜を突き刺して殺す訓練を強制されます。しかし渡部さんはクリスチャンであったため、「汝殺すなかれ」という聖書の教えに従って、捕虜を突き刺すことを拒否します。その結果、渡部さんは要注意人物とされ、敗戦を迎えるまで軍隊の中で毎日、壮絶なリンチと差別を受けることになりました。
そうした苦難の中で、渡部さんは自分が経験した軍隊の実像を約700の歌に詠んで日本に持ち帰りました。その中に、「捕虜ひとり殺せぬ奴に何ができる』胸ぐら掴むののしり激し」、「血を吐くも飲むもならざり殴られて口に溜まるを耐えて直立不動」という歌があります。渡部さんは軍隊の中で理不尽な迫害・リンチを受けながらも、信仰の良心に従って「殺すなかれ」を生きようとしたのです。
戦争は狂気であり、あらゆる罪と不義の塊です。戦争に正義などありません。それ故、戦争を放棄し、二度と戦争をしないことを誓った日本国憲法第九条は、世界史的人類史的な意義を持っています。どのような時代になろうとも、私たちは戦争に反対し、“殺すなかれ”を生きる者でありたいと願います。