NO1 「科学的検証の切実さと歯がゆさ」 跡部紘三

NO1 「科学的検証の切実さと歯がゆさ」 跡部紘三

2011年3月11日の東日本大震災とそれに続いて起こった福島第一原子力発電所の事故から、もう6年経とうとしています。目に見える復興の世界とは違い、「目に見えない放射線の世界」はどうなっているのでしょうか。この地で暮らしていく住民にとって最大の関心事は、「放射線の人体への影響」であろうと思われます。農業等を営み、その地で子や孫と暮らしていく方々とっては極めて切実な情報にも関わらず、これが、分りやすく説明されていない(できない)事に苛立ちや、歯がゆさ、限界を感じている住民、行政関係者、研究者等の方は多いのではないでしょうか。「一体、何シーベルトまでなら被ばくして良いのか?」これに対して「100ミリシーベルト以下は・・・」このようなやり取りが、延々と行われてきたと思います。説明する側も、される側も、もう一つ納得しているようには思えません。人体への影響として、非常に高い放射線量被ばくで問題となるのは、確定的影響とされる影響(発がんを除く)である数値以上の被ばくで大量の細胞死による影響が現れます。大部分は組織・臓器を構成している細胞の死が原因です。影響が出るとされる量がある程度分っているので、臨床的症状も予測できます。しかし、その福島の多くの方々が不安を抱いているのは、もう一つの確率的影響で発がんや遺伝的影響だと思います。世界的に権威ある国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告による「しきい値なし直線モデル」と云われるものでどんな低い線量でも細胞の遺伝子上の変化が起こり、線量の増加と共にそれらの発生率が増加するという考え方です。被ばくと発症の因果関係を示す明確なデータは存在せず、広島・長崎の原爆や原子力事故等の調査結果からの推定です。研究機関や研究者による評価法の違いがしばしば生じるのは避けられません。人体実験はできませんが、この長期低線量率被ばくの真実に迫ろうと云う努力が新しいモデルと生物学的実験で続けられています。当面は、より慎重に、安全側に重点を置いたICRPモデルでの対応が必要と考えます。

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