原発と原爆の同異(8) -原発の原理(その4)-

原発と原爆の同異(8)

―原発の原理(その4)―

 

松山奉史

 

核分裂反応が連鎖的に進行するためにはU-235の量に臨界量というものがあり(本誌188号)、原爆(純粋金属ウランと高速中性子との組合せ)の場合については本誌190号で触れました。一方、原発は燃料に酸化ウランUOを用い、そこにU-235が約3%含まれ、反応に与るnは熱中性子なのですが、連鎖反応(式Ⅰ、本誌186号)が継続するためにはやはり臨界量が必要です。BWRの場合なら燃料集合体10体前後が臨界量だそうです。電気出力100万KWのBWRは燃料集合体を700体以上炉心に装荷(本誌191号)していますから、100万KW級原発とは多数のミニ原子炉の集まりであるともいえます。

ところで、原発の安全性を確保することは原子核エネルギーの民生利用を謳う限りは絶対に必要なことで、その基本は大量に発生する放射能を原子炉内に確実に閉じ込めることに尽きます。しかしながら残念なことに、チェルノブイリ原発事故や福島第一原発事故が起きてしまい大量の放射能を撒き散らしてしまいました。これらの事故は、原子炉内に放射能を完全に閉じ込めるという完成した技術を人類はまだ手に入れていないことの証明です。その上人類は使用済燃料を始末するシステムも今だに開発できないままでいるのですから、核反応を制御せず放射能をただばら撒くだけの原爆技術は原発技術に比べてはるかに容易なもののようです。換言すれば、原発はまだまだ未完成な技術の上に利用が進んでいるというのが現在の姿であり、この点が原発の本質的な弱点となっているため、いくら原発は安全だと宣伝されても簡単にはぬぐい切れない社会的不安の原因になっていると思われます。原発が上述したミニ原子炉規模であったならもっとコントロールし易いのではないかと想像しますが、経済優先の大型化がとんでもない失敗をもたらしたといえそうです。

原発に対する不安としてもう一つよく出される質問があります。“事故時に原発は核爆発することはないのか?”というものです。この質問をする人の中にはチェルノブイリ事故や福島第一事故で発生した水蒸気爆発や水素爆発を核爆発であると誤解している人もいるようです。この質問に対して筆者は充分な知識を持っているわけではありませんので、専門家がU-235の密度や原子炉の構造を踏まえて述べている見解を紹介しますと、“原発は原理的に核爆発は起こせない”ということのようです。確かに、原発による核爆発の報告はこれまで聞いたことがありませんし、もしチェルノブイリや福島第一での爆発が核爆発であったとしたら、恐らく建屋の屋根が壊れる程度の爆発では済まなかったように思います。

原発で電気出力100万KWといえば熱出力では約300万KWに相当します。最後になりましたが、このエネルギーがどれほど大きいかを知っておくことは案外無駄でもないように思います。計算してみると、体積1立方メートル(重量約1トン)の氷(0℃)をたった1秒で100℃の水蒸気に変えてしまうほどの大きさです。これはとても大きなエネルギーであると思うのですが、福島で同規模原発が膨大な放射能を撒き散らした事故の記憶が強すぎて、この例は熱エネルギーの大きさをイメージする手助けとしては少し弱すぎるかも知れません。(“原発と原爆の同異”は今回をもって完とさせていただきます。)

【訂正】 第193号3ページ3段目の3行目:

・・・kr-92・・・→・・・Kr-92・・・

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