原発と原爆の異同(7)―原発の原理(その3)-

原発と原爆の同異(7)

―原発の原理(その3)-

 

松山奉史

 

本誌185号で1個のU-235が核分裂で放出するエネルギーは約200MeⅤであると記しました。この値は核分裂の前後で比較すると、分裂後では分裂前の質量の約0.09%が減少していることから、これをアインシュタインの式E=mc²によりエネルギーに換算して得たものです。それでは核分裂によってこのエネルギーはどんな姿で放出されるか見てみると、①:一般に励起状態として生成される核分裂片の運動エネルギー、②:励起分裂片が放出する(即発)中性子の運動エネルギー、③:②と同時に放出される(即発)γ線のエネルギー、④:核分裂片のβ崩壊によるβ線のエネルギー、⑤:④に伴って出るγ線のエネルギー、⑥:④に伴う(反)ニュートリノのエネルギー、です。前に原発の原子炉は火発のボイラー部分に相当するものであると述べました(本誌191号)が、それは①~⑤のエネルギーを最終的には熱エネルギーとして回収しお湯を沸かしているということなのです(通常、⑥は透過力が強くて殆んどが宇宙空間に逃げ出し回収不能なので含めません)。ここで指摘したいのは、②~⑥のエネルギーを全て回収できたとしても高々37MeV程度にしかならないという点です。したがって、最も大きな回収エネルギー源は何かといえば、それは取りも直さず①なのです。約165MeV(核分裂エネルギーの約80%)もあり、①~⑤を合計すると200MeVに近い値になります。それでは①のエネルギーをどうやって回収しているのでしょうか?

U-235の核分裂は燃料棒中のペレット内で起きます。例えば次のようです。

U-235 + n → Kr-92 + Ba-141 + 3n

ここで、Kr-92、Ba-141が核分裂片で、それぞれの核の陽子(電荷はプラス)数は36と56です。分裂直後、36個と56個のプラス電荷間には強い静電反発力が働き、ものすごい勢いで互いに遠ざかる方向に飛び散ります(このときの運動エネルギーが①です)。ところが、分裂片の周りは燃料ペレットを作っているU-238とO-16の海ですが、核に注目するとプラス電荷92と8の核の海でもあるのです。今、分裂片がこの海の中を飛び散ろうとすると周囲の核から強い制動(静電反発力)を受けてせいぜい数十ミクロンの距離を進んで止まってしまいます。つまり、核分裂片は殆んど燃料ペレット内にとどまることになると同時に、運動エネルギー①も全てペレット内で熱エネルギーとなり、ペレットの温度はこのエネルギーによって上昇します。電気出力100万KWの原発では1個のペレット(約5g)内で1秒間に約4兆(10の12剰)個の核分裂が起きていますので、ペレットには毎秒30カロリー以上の熱が運転中ずっと供給され続けています。この熱量はペレット内に蓄積され続けると多分数分もあればUO₂の融点(~2850℃)に達してしまうほどの大きな熱量です。そして実は、この大熱量を燃料棒の外にある軽水に伝える、換言すれば、水によってペレットの熱を奪う、このことこそが①のエネルギーの回収という意味なのです。

100万KW級原発でとられている実際のエネルギー回収策は以下のようです。先ず、UO₂でできた燃料ペレットは中心温度が融点を超えないように細く小さく作り(本誌191号)熱を逃がし易い寸法にしています。もしペレットが溶融すると、ガス状の核分裂生成物を放出して被覆管を破損するかもしれないからです。次に、ペレットが入ったジルカロイ製燃料被覆管には加圧したヘリウムガスを充填しています。ペレットの熱をヘリウムガスを媒介にして速やかに被覆管に輸送するためです。第三に、被覆管に届いた熱はすぐ外側にある水に移りますが、このとき被覆管表面温度が300℃以上にならないように設計されています。その理由は、被覆管表面の腐食が著しくなる温度(ブレークアウェイ温度)が300℃を少し超えたところにあるからです。その結果、ペレット中心温度と被覆管表面温度との差は2000℃近くにもなります。第四にこの温度差を保つために被覆管表面に沿う水流を強制的に作っており、大量の熱で流水中に気泡が生じないよう圧力をかけています(BWRで約70気圧、PWRで約150気圧)。そのため水の沸点は理論上300℃位いになるのですが、被覆管表面の制限温度を超えるわけにはいかないので300℃を超えないよう流量をコントロールしています。最後に、加圧下で300℃近い水は圧力を抜いた途端に約300℃の水蒸気になりますから、これをガスタービンに導いて発電を行なっています。タービンに入る蒸気は高温であるほど電気エネルギーへの変換効率が高いのですが、原発では材料由来の制限温度が支障となって火発より一段効率の悪い発電を行なっていることになります。また、水は高速nを熱中性子にまで減速させる減速材の役割を果たしていることは前回に述べましたが、今回述べたことからは、ペレットの熱を奪うことによってペレットを冷却する冷却材の役割も兼ねていることが分かります。(以下次号へ)

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